東京地方裁判所 昭和28年(ワ)5214号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実〕原告は被告会社事務員から被告会社は身元等の調査委託の引受、各種の法律相談並に土地家屋の明渡等の交渉解決事務の引受を業としているとの説明をきき、家屋明渡請求に関する交渉解決を目的とする委任契約を締結し報酬金並に立退料の前渡として合計金四十二万四千円を、もし相当期間内に居住者を立退かせることができなかつた場合には返還する特約の下に交付したが、被告は原告の催告期間内に明渡ができなかつたから右特約に基き前記金員の返還を求めた。
被告は右契約の成立を否認し、仮定抗弁として、被告会社の事業目的は各種調査並にこれに附随する相談に限定せられ、建物明渡の交渉解決というが如き事務は被告会社の目的の範囲外で原告主張の如き委任契約が締結されていたとしても無効であると抗争した。
〔判断〕原告勝訴。判決は証拠によつて原告主張の委任契約の成立を認め、次で右契約は被告会社の目的外の行為で無効であると判断したが、つぎの理由によつて被告はこの無効を主張することができないと判示して被告の抗弁を排斥した。曰く。
「被告会社が各種の調査並にこれに附随する各種の相談及貸金・手形の取立を現実に取扱つている事実は被告の認めるところであり、……を綜合すると、被告会社が積極的に家屋明渡等の事件も一般に取扱う等宣伝し、現実に取扱つてをり本件の場合に於ても被告会社はかかる行為ができることを原告に申向けて引受けた事実を認めることができる。而してこれ等の事実から推測すれば当時被告会社はかかる行為も会社の目的の行為として誤解していたものと推認することができ、この点において被告会社に重大な過失があつたものと断定せざるを得ない。ところが無効行為と雖も自己に重大なる過失のあつたときは民法第九十三条、第九十五条を規定した法律の精神或は民法第一条に所謂民法の基調たる信義則の原則に照し、自らこれが無効を主張し得ないものと解すべきだからである。」